ペルシャ絨毯とは
「実用品で美術品」 その二面性が最大の特徴です。使い込むほど味わい深く堅牢度を増すペルシャ絨毯は年月が経つとともに進化し、芸術品としての価値を高めます。
素材選び
ペルシャ絨毯の素材は、大きく分けるとウールとシルクです。厳しい風土に育つペルシャ羊の生後6〜12ヶ月の子羊から採れるコルクウールには優れた耐久力があります。 また養蚕に最も適しているという、イラン北部で生産される極上シルクには、素晴らしい光沢があります。
〜絹(シルク)〜
絹(シルク)は養蚕に適した気候の地であるカスピ海沿岸のマザンダラン地方や中北部イラン、さらにはカーシャン地方で産出される。シルクのカーペットは最も打込みが良く、軽くしなやかであるが、パイルに使用する以外にも縦糸・横糸としても使用される。一般的普及品には今日中国産の絹(シルク)が多く使用されている。
〜羊毛(ウール)〜
場所によっては山羊・ラクダ・ヤクの毛を使用するところもある。羊毛の場合は足やおなかの毛より脇腹や肩の毛の方が品質が良い。また、気候の温暖な平地や谷間にいる羊より寒さに厳しい北部の山岳地帯で飼育された羊の毛の方が品質が良い。最高級のウールはホラサン地方のものといわれ、弾力性に富み、起毛力に優れている。そのなかでもコルクウールは生後8ヶ月から14ヶ月のラムの毛で最高級のウールです。
〜木綿(コットン)〜
木綿(コットン)はオアシスのいたるところで栽培され、生産量は豊富です。近年の品種改良による良質な綿花は糸として紡ぎ、主にペルシャ絨毯の生地である縦糸や横糸の素材になる。羊毛(ウール)に較べ木綿(コットン)の縦糸のペルシャ絨毯の方がゆがむことが少なく、床に馴染みやすいです。
デザイン
絨毯に描こうとする文様を、方眼紙の一目が絨毯の一結び(ノット)になるように、まず線画で描きます。次に色つけし、意匠紙をつくり、各部分ごとに職人に渡します。デザインの些細な狂いが絨毯の出来栄えに大きく影響するので、細心の注意と高度なデザイン力を必要とします。
糸染め
深い赤、ペルシャン・ブルーの青などペルシャ絨毯の美しい色は植物(アカネ・藍・ウコンなど)、動物、鉱物、貝類など自然の恵みを最大限に生かした草木染めです。
同じ色を出すのにも、調合や染色の方法はそれぞれの染め職人に秘伝として代々受け継がれたもの。
しかし最近では科学技術の急速な進歩で品質のいいものが安く出回りだしたことから化学染料も使われているのも事実です。しかし伝統のペルシャ絨毯の染めの技術は今も尚、永々と受け継がれています。
・赤色 |
インドアカネの蔓草の根、コチニール(貝殻虫)。 |
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・黄色 |
葡萄の葉。 |
・茶色 |
アカシア・樫の木。 |
・黒・褐色 |
カシワの葉、黒い羊の毛。 |
・キャメル色 |
胡桃の皮。 |
・青色 |
藍・マメ科の印度藍。 |
・白色 |
白い羊の毛・絹。 |
染色工程 〜精錬〜
美しく、ムラ無く染めるために原毛の油脂分や汚れをお湯で洗う。(油脂分が多い場合は少量の石鹸に炭酸ソーダを加える。)この脱脂作業が不徹底だと繊維に染料が馴染みにくいです。
染色工程 〜染色〜
糸に色をつけ、その後媒染剤溶液に浸す。材料や発色の状態によりこの作業を繰り返す。媒染剤は主にミョウバンを使用しますが、素材やイメージする色によって鉄分・鉱石粉末など様々な媒染剤を使い分けます。染料が媒染剤の量の調合に始まり、染料に浸けた糸を煮沸する工程や時間調整など、全て熟練工の卓越した勘によるところが大きい。
染色工程 〜洗い〜
ソーピングと呼ばれる、糸の表面に残った余分な染料を洗い落とす。
織り
ペルシャ絨毯は精密な方眼紙に下絵として描かれたデザインに基づき、織り手が一目一目丹念に結び目(ノット)を作って織り上げていきます。実際には結ぶのでは無く、2本の縦糸にパイルを絡ませる手法となります。二本の縦糸にパイル(色糸)を絡ませ、根気よく結んでいくのが織りです。手順は以下の通りです。
(1)織り機に縦糸を巻く。(2)意匠紙に沿って前後の縦糸を交互に絡ませては適当な長さで切る、これが1ノットです。(3)横一列を結び終えたところで横糸を通し、櫛状の緯打具で締めます。(4)鋏でパイルを切りそろえます。
結び方には、手結び(ペルシャ結び)と鈎針(トルコ結び)の二通りがあり、どちらの結び方かは織り職人の出身地域や出身部族で異なります。
・トルコ結び |
イラン北西部で多く用いられているこの結び方は規則正しいために直線文様や鋭角的な文様に適しているが、やや機械的な印象を受けます。タブリーズ産の絨毯が機械的な印象を受けるのは、鉤針のような道具を使用しているところが大きいと言えます。 |
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・ペルシャ結び |
イラン中部・南部・東部で主勢を占めるペルシャ結びはトルコ結びに比較して流れるような曲線に適しており、ノットは産地ごとに毛の流れの方向に微妙な違いが認められる。この結びで幾何学文様を織っている産地も珍しくは無いです。 |
仕上げ
織り上げられたばかりのペルシャ絨毯は色も手触りも生硬く、文様も不鮮明なものとなっています。仕上げの工程は洗い・乾燥・刈り込みの三つです。
〜洗い(ウォッシング)〜
ブラッシングによる洗いで汚れや無駄毛を取り除くと、色が安定し光沢が増します。石床の上にペルシャ絨毯を広げ、大量の水を使って汚れや余分な無駄毛を取り除きます。たっぷりと水分を含んだペルシャ絨毯を鍬のような形の道具で水分を擦りだします。
〜乾燥(ドライイング)〜
洗い上がった絨毯を木床にクギで固定し、織りの歪みを矯正しながら灼熱の陽射しの下で天日乾燥をします。
〜刈り込み(シャーリング)〜
絨毯の表面を刈り込みパイルの長さを均一に揃え、表面を平らにするためティーグと呼ばれる刃物で刈り込みます。しなやかで美しく鮮明な意匠を浮かび上がらせるおの作業も高度な技術を要します。細部にわたる点検が終ると完成します。
豊富な形とサイズ
絨毯といえば長方形が一般的です。ところが一枚一枚を人が手で織るペルシャ絨毯は円形、楕円形、正方形、六角形、八角形、ランナー…といろいろです。サイズも5,000m2のものも実在しますが、当社ではどんなスペースでもコーディネートできるよう、20cm× 30cmから6m×10mの絨毯まで各種取り揃えています。
動物や植物、風景や絵画などを写実的に織り込んだペルシャ絨毯の歴史は古く、千四百年以上も前のササン朝ペルシャに遡ります。首都クテシフォン宮殿には四季を文様に織り込んだ、30m×150mの巨大な絵画絨毯「バハレスタン(永遠なる春)」が敷かれていたと記録に残されています。タペストリーの主な産地は起源の古い順にケルマン・カーシャン・タブリーズなどがあります。